no2

《母語と母国語》

 

母語と母国語の違いについてご説明します。

すべての人間には言語を獲得する能力があると言われています。うまれた赤ちゃんが一番初めに獲得する言語が母語、あるいは第一言語と言われるものです。普通はやはりお母さんが赤ちゃんと接する時間が長いので、お母さんの話すことばを赤ちゃんはまず覚えるのですね。「父語」でないので、お父さんはちょっとかわいそうですね。

さて、みなさんは、「母語」より「母国語」という言葉の方が馴染みが深いと思います。「母語」と「母国語」は同じ意味なのでしょうか?答えは「ノー」です。

たとえば、マレーシアという国の場合、公用語はマレー語ですが、母語が中国語だったりタミル語だったりする人がたくさんいます。だから、母国語は何か、と言われればマレー語と答えることになりますが、家庭では中国語で育って母語は中国語、ということがあります。

さらに、カナダは英語とフランス語の2つ、またスイスはドイツ語、フランス語、イタリア語の3つを公用語としています。フランス語圏のカナダにはフランス語を母語としている人がたくさんいますが、母国語は何かと言われればカナダのフランス語ということになりますか?また、スイスのフランス語圏の人たちはどうでしょう。母国語は何かと言われればスイス語でしょうか?いずれにしても、国と言語は1つずつ対応しているわけではありません。世界中には母語と母国語が一致しないことはたくさんあります。母語と母国語は違うものだという注意が必要です。英語やフランス語にも「母国語」にあたることばはなく、日本は「母国語」という言い方をするめずらしい国のようです。

では、聞こえるお母さんに、聞こえない赤ちゃんが生まれたらどうなるでしょう?いくら話しかけても赤ちゃんには聞こえません。つまり、お母さんのことばが赤ちゃんの母語にならないのです。さあ、困りました。慌てなくても大丈夫ですよ。ろうの赤ちゃんには、「手話」という母語を獲得する能力が備わっているんです。「母語」と同じような意味で使われる「第一言語」という言葉があります。

次回は、「第一言語とその習得」についてお話します。