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《第一言語と第二言語》

 

バイリンガル教育の話をするときに、必ず出てくる言葉に「第一言語」というものがあります。「第一言語」とは、「順番で一番初めに獲得した言語」、というほかに、「一番得意な言語」、「自分を最もよく表現できる言語」、という見方があります。

私たちは言語学者になるためではなく、ろう児を育てるうえでの勉強をしているので、ここでは「母語」と「第一言語」は、同じと考えてもいいと思います。

「第一言語」も「母語」と同じように、環境などの影響で変わることがあります。例えば、トルコからスウェーデンに移民した家族のような場合。親はいつまでたってもスウェーデン語がうまくならないのに、子どもはどんどんスウェーデン語を覚えて、そのうちトルコ語の方をだんだん忘れてしまうケースがあります。これは、第一言語がトルコ語から、移民先のスウェーデン語になってしまう、というものです。日本人の場合でも中国残留孤児の方々で中国語しか話せない方もいますよね。

では「第二言語」とは何でしょう。「第二言語」とはその人が母語(「第一言語」)を獲得した後に使用することができる「第一言語」以外の言語のことです。日本人はほとんどの場合、中学・高校で学ぶ英語が「第二言語」になります。普通は初めて学ぶ外国語が「第二言語」です。そしてその後もし大学でフランス語やドイツ語を学べば、第三、第四言語と言うことができるでしょう。しかし、「第一言語」以外は全部まとめて「第二言語」と言うことができます。つまり第一言語が先で、第二言語が後という順番です。

母語習得、第一言語の習得に失敗した、という話は普通あまり聞きませんが、第二言語、外国語の習得は大変難しいものです。日本語と同じくらい自由に英語が使いこなせる人はそう多くないですよね。かなりできるようになる人もいれば、ほとんどできないまま終わる人もたくさんいます。当たり前と言えば当たり前ですが、ここに第一言語習得と第二言語習得の大きな違いがあります。

第一言語習得は普通家庭など育った環境の言語、多くの場合母親の言語を自然に覚えるというもので、習ったり、勉強したりすることはありません。つまり努力しなくても自然にできるようになるのです。ところが第二言語の方は、一生懸命学校で習ったり、勉強したりしてもなかなかうまくいかないのです。

もちろん、お母さんが日本人、お父さんがアメリカ人などの場合、家庭で自然に日本語と英語が話せるようになる場合もあります。同時均衡バイリンガルという、どちらも第一言語であるめずらしいケースです。

聞こえない赤ちゃんが自然に身につけられる第一言語は手話です。特別に練習しなくては身につけられない言語は通常母語にはなりません。ろうのお母さんが普通に手話で語りかければ、自然に手話を第一言語として身につけていきます。次回はろうの赤ちゃんが第一言語をどうやって獲得するのか、お話しましょう。