新生児スクリーニングでリファーになった

新生児(聴覚)スクリーニングとは?

新生児聴覚スクリーニングの今

新生児聴覚スクリーニング(Newborn Hearing Screening,以下、NHS)とは、生後1日から3日の間に、赤ちゃんが寝ている間に自動的に聞こえの検査ができる機械を使って、耳が聞こえるか、聞こえにくい可能性があるのかを、できるだけ多くの新生児に対して検査をすることをいいます。

その目的は、聞こえにくい、もしくは聞こえないという可能性をできる限り早くに見つけて、適切な治療や療育につなげ、その後の言葉の発達への影響を少なくするためです。 新生児全員にこの検査ができるといいのですが、2019年に厚生労働省が公表した調査結果では実施率は、81.8%にとどまっています。これは産婦人科などに、NHSの検査をできる機械がないことや、公的な助成が自治体によりさまざまなため自己負担が大きい場合があることが、100%にならない原因であると言われています。

NHSの検査の結果から分かること

NHSの検査によって、「パス」と「リファー」という結果が分かります。

「パス」は、聞こえについては問題なしということになります。
「リファー」は「要再検査」という意味で、聞こえにくい、聞こえない可能性があるということになります。
ただし、「リファー」は、聞こえない可能性が高いため、もう一度精密な検査をするようにという意味であって、「難聴」という確定診断は、数ヶ月後に別の精密検査をしてから医師が診断することになります。

その間、保護者のみなさんは生後間もないお子さんを前にしてモヤモヤした気持ちをもちながら過ごすことになります。
このように確定診断が行われるまでの間のフォローアップが大きな課題であるといわれています。

また、「リファー」となったお子さんは必ずしも「難聴」の確定診断になるわけではありませんし、「パス」となったから完全に大丈夫ということでもありませんので、その点についても注意が必要です。

「難聴」の診断の後に

生後6ヵ月ぐらいから確定診断が可能となりますが、その時期は医師によりさまざまです。そして、ほとんど聞こえが認められなかった場合には、遺伝子検査等の結果にもよりますが、ほぼ人工内耳の装用が薦められることになります。

しかし、後述するように人工内耳には限界もあります。そのため、人工内耳を装用する前の段階で、まず目で見てわかる言語である日本手話に出会うことが大切であると考えています。
子どもの言語獲得の重要な時期となりますので、この間にも、常に視覚からの言語の入力を絶やさないことが、その後の言語獲得(音声による発音発語でも日本手話でも、どちらも同じ)には極めて重要なこととなります。今までに、聞こえない、聞こえにくいと診断された人たちは、言語としての日本手話に出会い、「ろう者」として社会で活躍されている現実もあります。

残念ながら、わが国ではこのような情報が知らされることのないままに、人工内耳が薦められている現実もあります。

※カナダや米国では、医師から人工内耳装用の前の早い段階から手話に触れるよう説明があるそうです。

聞こえにくいということはどういうこと?(難聴?)

「聞こえない」もしくは「聞こえにくい」ってどんなことなんでしょうか。生まれた時から聞こえない人たちで大人の方たちに尋ねたことがあります。「聞こえないってどんな感じなんですか」と。すると逆に尋ねられました。「聞こえるってどんなの?」と。そう聞かれたとき、「え?」と言葉に詰まってしまいました。

聞こえる人にとっては「聞こえる」ことが当たり前で、ずっとそうしてきたので、改めて尋ねられても答えられません。聞こえない人は「聞こえない」ことが当たり前でずっと生きてきたのです。聞こえる人が耳栓をつけて疑似体験をしても、それは単に音を遮断しただけで「聞こえない状態」や「聞こえない人」を体験できるわけではないのです。

聞こえない人から「聞こえる人って大変ね」と言われたことがあります。確かに、大きな音に驚いたり、うるさかったり、小さな音でも気になったりすることがあります。つまり、聞こえる人が、聞こえない人は大変だとか、不便だと思うのは、「聞こえる」ことを基準にしているからであって、聞こえない人が「聞こえない」という基準でみると、聞こえる人も結構不便なんだなと感じるというわけです。社会の大多数が「聞こえる」ことを基準にして作られているため、聞こえない人が不便に感じることが多いだけのことなのだと思います。
世の中には、「聞こえる」人もいれば、全く「聞こえない」人もいるし、かなり「聞こえない」人も、半分ぐらい「聞こえない」人、ちょっと「聞こえない」人、高い音だけが「聞こえない人」、時々、急に「聞こえない」人、最近「聞こえない」になった人などさまざまな聞こえ方の人がいます。お父さんお母さんも、お子さんも、そんな中で一人の聞こえ方として存在しているに過ぎないのです。

そして、自分は「聞こえる」と思っているご両親が「大変だ~」と思ってしまうのは、いわゆる「聞こえない」人に今までに出会ったことがないから、知らないから、そして、この社会が「聞こえる」人たち基準で作られているから、そう思ってしまうだけのことなんです。「聞こえない」もしくは「聞こえにくい」ってこういうことなんです。

そうは言っても、やはり心配ですよね。聞こえない、聞こえにくいお子さんの育て方について、ここからひとつずつ考えて行きましょう。

聞こえにくい・難聴児の言語習得方法とは?

聞こえる赤ちゃんのまわりは音声で溢れています。大好きなお父さんやお母さんの声、お兄ちゃんやお姉ちゃんの声。おじいちゃんはおばあちゃん、おじさんやおばさん、近所のおばさん、スーパーのレジのお姉さん、テレビの音声、電車の中のアナウンス、街角に流れるクリスマスソングから、お母さんに抱っこされながら聞くATMの音声案内など。聞こえる赤ちゃんは、生まれると同時に、目が覚めてから寝るまで、自分に話しかけられる声だけでなく、いつでもどこでも音による言葉を聞いているのです。

赤ちゃんは生後2ヶ月くらいから声を出し始めます。これはクーイングと呼ばれるもので、舌を使わずに、「あ~」「う~」などの母音を発声するものです。4~5ヶ月になると「あうあう」「ばぶばぶ」という喃語(なんご)を話し始め、10ヶ月を過ぎると欲しいものがあるときに「あー」と声を出したりします。1才前後で「まんま」のような初語が現われますが、それまでの1年間、赤ちゃんは音声による言葉を膨大に聞き続けているわけです。

ところが、聞こえにくい赤ちゃんの場合、そういった音による情報がほとんど入りません。では、聞こえにくい赤ちゃんはどうやってことばを覚えて行くのでしょう。

聞こえる子どもの環境

聞こえにくい子どもの環境

「言語習得の方法」と聞くと、すぐに「発音の練習をさせなくちゃ」とか「モノの名前を教えなくちゃ」と考える方も多いと思います。でも少し待ってください。聞こえる赤ちゃんが「まんま」のような初語を発するまでの間、まわりの大人は特別に何かを教えようとしているでしょうか。もし、何かを教えているとしたら、離乳食の食べ方だったり、コップやストローの使い方など成長に合わせた行為だと思います。「お父さん」を「どーたん」と言っても、笑って返事をしますよね。

病院では、言語聴覚士による「口話法」での言語習得や、ろう学校への相談を進められ、ろう学校では「口話」や「口話」と「日本語対応手話」の併用を進められると思います。
それは、暗に「聞こえにくい・聞こえない」のを「聞こえる・しゃべれる」を目的とした場合の言語取得方法です。
つまり、「聞こえにくい」赤ちゃんのための言語取得方法ではないため、言語習得に遅れが出てしまいます。
では、「聞こえにくい」赤ちゃんに適した言語習得方法とはなにか?
それは「手話」という視覚的言語の習得方法です。

当サイトでは、「手話」での子育て法、手話での言語習得方法をおすすめしています。
でも大丈夫です。赤ちゃんは自分の力を最大限に活用して、あらゆる方法で情報をインプットして行きます。聞こえにくい赤ちゃんにとって最も効率が良く理解できるのが「目」です。

子育てに違いはでる?

「聞こえる赤ちゃん」と「聞こえにくい赤ちゃん」。子育ての違いは何でしょうか?

お子さんを抱いていると反り返って抱きにくいことがありませんか。これをお医者さんに話すと自閉症や脳性麻痺を疑われますが、聞こえにくい赤ちゃんの場合は「見たい(知りたい)」のです。首や腰がすわると前向き抱っこを喜んだり、添い寝をするとお母さんに背中を付けて寝る子もいます。聞こえにくい赤ちゃんにとって、見えないものは無いことと同じです。生後すぐでも赤ちゃんの「視界」を意識して接するようにしてください。聞こえない赤ちゃんの子育てはアイ・コンタクト(目を合わせること)が基本です。赤ちゃんと目が合っている状態で、あやしたり手話で話しかけたりします。抱き上げるときも背後からではなく、顔を見てから抱き上げるようにします。また、赤ちゃんのそばを離れるときに、何も言わずに離れてしまうと赤ちゃんは不安になります。
「トイレに行くよ、戻ってくるまで待っててね」などと伝えてから離れます。
はじめは理解できなくても繰り返すうちに、“お母さんはまた戻ってくる”とか“トイレに行ったんだ”とわかるようになって、赤ちゃんも安心して過ごせるようになります。聞こえる子どもの子育てでも、お母さんは言葉がわからない赤ちゃんにいろいろと話しかけますね。ろうの赤ちゃんにも同じように手話やジェスチャーでたくさん話しかけてあげてください。

反り返るのは周りを見たいから